アトリエ青 Atelier Blue

星つりじいさんの日々の暮らしをお届けしています

紙お越し・紙の復元

久し振りに透明水彩についての話をします。透明水彩は原則白絵の具を使用せずに着彩します。例えば、真っ白なものならば何も塗らずに表現する。これを通称紙残しと言います。明るい空や雲は水と薄い青などの絵の具だけ、決して白は混色しません。混色すると色が褪せてしまうからなのですが、この辺りは色々ネットでも解説がされていますので端折ります。


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ここに以前描いた作品の中から「空」に絞って何点かピックアップしました。(いづれも白絵の具を使っていません)

話を紙残しに戻します。あらかじめ細部を紙残ししたいけれど、うっかり塗ってしまわない為にマスキングをする事もあります。これも王道の技法なので、検索すれば直ぐに分かります。

今日は案外記事が出てこない紙お越し・紙の復元について簡単に説明します。一旦着彩してしまった中に後から白い箇所を残せばよかったと思う場合や、うっかりマスキングを忘れてしまう場合は往々にしてあります。その際に透明水彩の白絵の具を塗る方が多いのですが、元来、透明水彩は光を透過しやすい性質を持っているので、下の色が透けて見えてしまいます。この為に紙残ししたほどの白さを再現出来ません。

その様な時の凌ぎ方としてアクリル絵の具の白か、修正絵の具を使用します。(下記写真)


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     ホルベインアクリル絵の具      ペーパーカラー修正絵の具

ペーパーカラー修正絵の具は正直存在を知りながら私自身使った事がないのですが、アクリル絵の具に同じく原料は樹脂です。水を極力少なくして使用すると乾燥後は不透明のしっかりした皮膜になります。水彩紙にもナチュラル系や漂白したホワイトなどバリエーションがあるので、使用している水彩紙に合わせて専用のものが売られています。

amazonでは20ml 420円でした(2022.1.4現在)

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メーカーサイト https://www.muse-paper.co.jp/product/shusei_enogu.php

要は紙残しをしておきたかった箇所に後から上手く塗れば、遠目にはその様に見える作品になります。ここに、私の作品で参考になりやすいものをアップします。

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この絵はマスキングは使わずに、下書きもなしで描いています。つまりはいきなり着彩するといういつもの私のスタイルなのですが、空は全く紙残しで、それと調和する様に画面の周囲も白く霞んだ様に塗り止める事をしています。これらは綿密なプランに沿って作画しているのではなく、即興的な判断によります。

そして肝心なのが青い◯内の白は紙残し、赤い◯内の白はアクリル絵の具を使っています。

中で右上の屋根の赤い◯内の木の葉はアクリルの白の上に枯れ葉の色を塗っています。この様に小さな面積や、ポイント的な使い方でであれば、一旦紙お越し・紙の復元をしておいて後の着彩が可能です。そして、ここが重要なのですが、遠目にはそうとわからないのです。この絵の場合は先述した空一面を真っ白に紙残ししたり、周囲に紙だけの面積が多いので、多少は白を入れても気が付かないのです。描いた私自身が間近で見ないとわからない程です。樹脂系の絵の具であれば紙残しと同じに出来るのではなく、あくまで絵の具の乗り方が変わるので、厳密な意味で紙お越し・紙の復元と同義になりません。

ここで、もう一つ裏技 を紹介します。それは水彩紙を貼るという反則のような方法です。反則か否かの解釈は画家により個人差がありますが、私は肯定派です。但し、先に同じく「遠目にはそうとわからない」のは、やはり重要です。何故かというとその箇所が貼り絵やコラージュ化してしまうと、透明水彩画として違和感が出てしまいます。貼り絵もコラージュも一つのジャンルなので、混在して見えるとクドイ印象になります。

先月にもアップしたこの作品は、実は色々やっています。

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赤い◯内の紅葉した葉は、あらかじめ別の水彩紙に着彩したものをちぎったりハサミで切って貼っています。青い◯内の黄色い花はアクリルの白で紙お越しをしてから黄色を着彩しています。緑の◯はクラッキングといって、まだ濡れている内に筆の肢で削り、黄色の◯は水で洗い拭き取っています。

家屋の白い壁は紙残しです。クラッキング洗いは、それぞれ紙残しを再生する紙お越し・紙の復元ではなく、技法名がついている通り、れっきとした表現技法なのです。クラッキングは枯れ草の折れそうな茎の表現に適しているし、洗いは木の柵の経年劣化の雰囲気を出すのに有効です。紙残しする必要はないけれど、やはり水彩紙の地肌を作風に取り込むという意味では関連性を感じたので、ついでに解説しました。