アトリエ青 Atelier Blue

星つりじいさんの日々の暮らしをお届けしています

2m

今日は2mという距離の話です。セルビアの個展に来て下さったこの大柄な男性、実は有名な石彫作家で185cmくらいの身長です。石彫というと日本では野外のアートイベントなどで目にするものを思い浮かべてしまいますね。

でも、セルビアでは教会などの建築に欠かせないもので、生活に密着しており、装飾として需要が結構あります。

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横にいる小柄な若者は息子さんですが、この頃はティーンエイジャーでしたが、既にプロ級の腕前です。↓


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正に驚愕の出来栄え‼︎    それは置いといて本題の2m の話に戻します。

大体、セルビア男性の平均身長が180cmなので、日本では大柄な私が普通に埋もれてしまいます。

写真の中にもいるのですが、頭が隠れています。

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という訳で、街を歩いていると女性でも私と同じか、もっと高い身長の方も多く、男性で「背が高いなぁ〜」となる基準が2m になります。

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 ここまでは単なる身長の話でしたが、同じ2m でも今度は絵との距離です。

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日本で美術館に行くと殆どの方が、絵を目の前(50cm前後)にして見ています。印象派などは人気が高くずっと列になって横にカニ歩き移動しつつ多くの方が鑑賞されています。

が、この鑑賞の仕方は間違いです。絵の大きさにも比例しますが、原則的に先ず2m は離れて観ないといけません。何故かというと、作者の仕掛けを脳内でイメージに変換する事で最大の雰囲気や効果が味わえるからです。

印象派の場合は特に視覚混合という技を用いるのですが、これはキャンバス上では様々な色を配置しているだけなのに、一定の距離を置くと独特の中間色と深みが出ます。つまり人間の錯覚を上手く利用しているのです。そして、人により視力や色彩は個人差があるので、それも影響します。

でも50cmでは視覚混合が起きません。(※極小の点描なら起きる場合もある)   仕掛けに上手く乗るには最低2m は必要です。私の印象派絵画を参考にご覧下さい。

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オンラインで見たところで、原画を見る様には行きませんが、部分拡大と全体を比較すれば若干ですが、ご理解頂けると思います。この落葉の陽だまりと影には、茶色を感じると思いますが、全く使用していません。

絵描きは距離を取る事を感覚的に理解しているので、美術館でも離れたり近づいたりを繰り返して鑑賞しています。そういう人は大体が絵描きや、審美眼を持った人です。

そう考えると「原画を観てきたよ」と言っても、それぞれの人の脳内では違う印象で残像・記憶になっています。そこが面白いところです。

私は興味深い一枚の絵を見る場合に、正面から可能な限り距離を取ってみて、そこから徐々に近づいて一番理想的な距離を先ず見つけます。絵はそこで完成されるのです。

今度は、どうやって表現してあるのか、技巧を間近に顔をすり寄せて観察・分析します。この時に美術館の警備の方などに怪訝な顔をされても、お構いなしに研究するのです。(※不思議とこれまで注意された事はありません)

これを反復している内に、何となくヒントが掴めます。他にも、照明の色温度や光度(輝度)も計算して発色を補足しながら観るのですが、これは話が長くなるので省略します。

身長があまりないから離れて観たくても人の頭が邪魔だという方は、高下駄を履くと良いです、竹馬でも良いですが、きっと没収されるでしょう😆

印象派絵画は視覚混合が特徴なので、距離が必要なのはわかるけれど、例えばフェルメールピカソはどうかというと、やはり同じです。全体の印象を残すには2mから先必要です。

私の出来損ないの実験的透明水彩作品で、既に燃やした絵ですが、写真だけ残っているものから一部抜粋で、アップと引きの絵を並べてみます。アップだと意味不明なものが、何故か全体的に観ると絵になるという錯覚の面白みをご理解頂けるかと思います。

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透明水彩の場合は、視覚混合は左程駆使しません。説明的な描写を省く(抜く)事で脳内イメージをより喚起するのを狙います。

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これらは、どこまで行けるか(抜けるか)の実験をした試作です。

☟これは作品にしようと思って、失敗したものです。

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今までたまたま離れて目に入る事はあっても、近付いて鑑賞する方が良いと思い込んでおられた方は、今後は距離を置いてご覧になって下さい。

11月13日(日)まで開催中の国際水彩画交流展にベオグラードの風情を感じてもらえたらというつもりで展示している私の一枚です。これは説明的な輪郭をなくしても、鑑賞者は何となく感じるし、見えてくるという事に挑んでいます。

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車のタイヤや影を道路と同じ調子で影で一括りにしているところが特にそうですが、引いて全体をみたら車の存在が控え目な雰囲気で心地よく見えて来ます。

タイヤが描いてるように感じてしまうのは、脳の中なのです。

是非2m〜3m離れてご覧頂ければ幸いです。私の絵は物体であって、イメージはご覧になった方の中で醸成される事を願います。