アトリエ青 Atelier Blue

星つりじいさんの日々の暮らしをお届けしています

洗い画法

6年前にも上げた作画工程の記事を自分で久し振りに見ました。今見直すと面白かったので、改めて記事にします。きっかけは友人が送ってくれた一枚の横須賀の写真でした。その頃、私は紙残しをしないで全面を着彩して下地を作り、洗い画法で描いていたのですが、その後封印しました。

何故封印したのかと言うと、仕上がりがリアルになるのと、格好いいキザな雰囲気になるのが嫌になったからだと思います。

それでも、ご覧になる人や一部の受講生にとっては興味深く、参考になるかもと思い、6年振りに更に詳細を加えながらご覧に入れようと思うに至りました。

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上の写真はデジタル一眼レフで撮られたいい写真です。友人はカメラにそこそこ精通しています。これがまず大事。露出やシャッタースピードなどを操って暗さと眩さが共存する画面を計算して撮影しています。加工もしていませんね。スマホとかでは手前の人物がこの感じにボケないでしょう。ピントを遠景に合わせてあるのがポイントです。

これを元に下描きなしで全面をドボドボに着彩します。透明水彩の王道を行くならば、街あかりや車のライトは紙残しをすべきです。しかし、難易度が高い技術を必要としますので、開き直って全塗りで行っても良いかと思います。下描きをしないというのが非常なリスクに思われるとは思います。その場合は薄いH2・H等の鉛筆で大まかな下描きをしておくと良いでしょう。鉛筆の濃さと規格についてはこのサイトで分かり易く解説されています。

https://www.mpuni.co.jp/customer/pencil/qa_05.html

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透明水彩絵の具以外にもクレヨンであまり意味を考えずに、線やざらつきを加えています。これを施す事でまったりした感じや、仕上がり時に写真とはひと味違ったテイストになるからです。でもこれは好きずきでしょう。

一晩(20時間程度)は自然乾燥させてから、徐々にモチーフを重ねて描いていきます。下地に重ねるので、あまり濃くなくても深みは出ます。下地が少し透けて見えるままにするのがコツです。この際に水で濡らした筆で明るくしたい(白っぽい)箇所を洗って行きます。

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空も全面的に洗う事で奥の山肌やマンションのシルエットが起きて来ます。洗いは水の量や、濡らして拭き取るか、拭き取らないか。また拭き取る場合でもティッシュなどを押さえ付ける強弱で表情が変わります。その感覚が掴めるまでは、一気にしないで、徐々に何度も洗えば上手く行きます。よく見ると山の稜線を出すのに洗いに強弱を付けているのがお分かりかと思います。

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但し、洗いだけでは絶対に元の紙の白さ(一番明るい状態)には戻せません。そこで、煌々としたライトや光は洗えるとこまで洗って、ここと言う部分に限定して白絵の具を使います。透明水彩の白は、透き通って薄くなるので適しません。ガッシュ(不透明水彩)かアクリル絵の具を用いるのが良いでしょう。この絵の場合はアクリル絵の具を使用しています。アクリルは水性で使い易いですが、乾燥すると樹脂なのでプラスチックの薄い膜になります。

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完成作品は、ライトに暖かみを感じられると思いますが、洗う時点での下地の色が暖色(赤み)か寒色(青み)かによって変わります。クールな感じにしたい場合は寒色を配置しておけば、そうなります。あくまで白絵の具自体には一切、黄色やオレンジを混ぜていません。白のままです。いや、ようよく見たら奥のマンションの部屋の灯りはごく少量色を入れていました。でも眩しく感じる車のライトや街灯は白です。

最後に私の判断で画面の傾きを写真とは逆の左肩落ちにしました。この辺は流れで決めたに過ぎず、計算していた訳ではありません。下地を塗った際の無意味なクレヨンの線などの面白みに合わすと、この方がいいなと思っただけです。

以上の様に洗い画法は万能ではありませんし、どちらかと言えば裏技的な技法です。透明水彩を知っている人であれば、白絵の具を最後に使うのは邪道で、マスキングをすべきだと意見があるでしょう。それは正論ですが、マスキングは下描きをして着彩する前の段階でしなければいけません。この絵の様に偶然性や破綻を味として作品に取り込んでいくタイプの作品には合いません。

まあ、こういうのも時にはありだという感覚で思って頂くのが良いでしょう。