アトリエ青 Atelier Blue

星つりじいさんの日々の暮らしをお届けしています

扉絵の原画

小説家、白石一文氏からのご指名で、2019年から連載誌「小説 野生時代」掲載の「松雪先生は空を飛んだ」の扉絵を描かせて頂くという光栄な仕事に関わらせて頂きました。毎月原稿を読者より早く読ませて頂けるだけで、とても新鮮な思いを抱きました。更に読んだ後から自身に降りてきたイメージをイラストで描き下ろす。実際にはモノクロで掲載されますが、私は全部カラーで描く事にしました。そうしないと込められないものがあるからです。

私にとり、この仕事は小説とのコラボレーションという解釈で臨みました。しかし、9話目で完結を待たずに連載が中途で打ち切られるという事態が発生しました。作者の諸事情や編集者の苦渋の決断なのですから、尊重せねばなりません。残念ながら不可抗力により、このコラボは完結せぬままに終わりました。それから3ヶ月ほど経過しますが、小説は未だに完成していない様です。この生煮えの感覚により私の何処かが奇妙な感覚に苛まれたままでいます。

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例えると子供を流産した人の心の傷に近い気もします。小説は最後の句読点「」を打つ瞬間に、この世に産まれいづる様に思えます。

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それを一絵描きとして共有する光景を見る事、そこで何を描くのか!? が、私にとっての仕事の最終的な希望だったのですが、予期せず儚く消えました。

このコラボ流産の後遺症を払拭したいのは私の勝手ですが、小説を楽しみにしておられたファンの読者の方の心も慮る配慮がいるでしょう。小説はもう、完成まで8割強に差し掛かっていたからです。

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今となっては「松雪先生は空を飛んだ」が、小説として完成され、世に生まれる事、それが唯一の希望です。

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そうすれば、私も最後のイラストが描けるでしょう。現時点でもはや仕事ではなくなっており、書籍化された場合に描き下ろしイラストの依頼はまず来ない様ですが、その後誰がどうしようと、それはそれで膨らみがあって良いかと思います。

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しかし、連載が完結したと仮定した場合に、そこで本来は何が生まれる筈だったのかを見たいだけなのです。それは私が完成原稿を読み、私が勝手に腑に陥ちるイメージを見出せれば、全てが解決するのです。今回の経験はこれはこれで得難い経験値となったのではないか。今はそんな風にして、前向きに捉えて行きたいのですが、まだ感覚はおかしなままなのです。