アトリエ青 Atelier Blue

星つりじいさんの日々の暮らしをお届けしています

キッチン

前回の投稿「事なかれ主義」とは打って変わって、今回はすべて本物の話です。実話ということではなくものの本質は何処にあるか、それはキッチンであるという話。以前シ・オ・ミ師匠から教えて頂いた学びの言葉で、一回お話しした気もしますが繰り返しても構わないでしょう。

キッチンといえば、台所、食卓というイメージですが、人間の暮らしの中で家族や仲間と過ごすのに重要な意味を持っています。そこには何気ない会話、気取らない時間が流れています。

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そこでいつ何が起こったのかで人生の全てが決まるというのが、キッチン論です。事なかれ主義で生きていたら100%出逢えないひととき、そこには本物のコミュニティが拡がります。意識している訳ではなく気負ってる風に見ない時に、その場に自然に居合わせるのです。

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ベオグラードで1日ワークショップをした際に、正にそれは訪れました。その時、実は私は思うように事が運ばずに少しばかり狼狽したのですが、それが今振り返ると逆に新鮮な時間だったのです。

私は将来、本当にこのアート教室でワークショップをボランティアでいいのでやりたくて仕方ありません。

 

今月14日に大津でのイベントを控えた留学生マイチ・マテヤ君とゼムンにある故ミロシュ・ジュリチコビチ邸を訪れた際にも、それは訪れました。この後で息子ボシコ会長とけんけんがくがくの論争をする前の写真ですが、今にして思えば、事なかれ主義の真逆で真っ向からお互いが主張して対立し、果ては相互理解に及ぶ、そこには妥協はなく譲歩という手段が控えています。主張のないものは存在しないと同義になります。主体性やこだわりは言えば言うほど相手に伝わるので、その感覚が私には合っています。

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いざ個展の蓋を開けてみれば、ボシコは色んな方を招待してくれていました。真剣に感想を言ってくれるこの方は石彫でセルビアを代表する職人であったのに関わらず、工房の見学に誘ってもらいながら無下にした事を後悔しています。それでも個展自体がキッチンになりました。

 

そして昨日、一緒にアートグループOAKを作り、日本とセルビアの美術工芸作家協会アート&クラフトを設立した共同代表のランプ作家ゾラン・パニッチから一通のメールが来ました。

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どうやら年齢的な事や諸々の事情でアート&クラフトを解体したいというような主旨の内容でした。

それはもっとフリーでお互いを束縛しない形態に移行するという意味であり、我々は充分にこれまでの有意義な時間を過ごせたので、好きにすれば良いし、リラックスして人生を楽しんで欲しいと返事しました。実際にアート&クラフトとしての活動は一回日本で企画展示をしましたが、殆ど軌道に乗りませんでした。

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色々と触発し合って新作コラボランプの制作メモなどを工房に残して帰りましたが、やはり日本に帰ってしまうと、どこかでブレーキが掛かり停滞してしまいます。

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一過性のものだったのかも知れません。それでも、一緒にいた時間はやはり本物だった気がします。

 

イラン人のカタユーンとは次にベオグラードでまた落ち合おうと話しています。

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一期一会であっても、本物の時間を共有出来た事で、絆が生まれて、再会を望む。それ自体がキッチンのなせる技かと思います。

 

ゾランたちアート&クラフトのメンバーはアパルトマンにある半地下フロアをリノベーションして新たに拠点を作り始めています。私はもう、そこが見たくて仕方ありません。

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そんな風に一通のメールがキッカケで、セルビア症候群が再発しました。工房を閉めてからゾランとバス停まで歩く時にいつも抜けた、この夕暮れの公園の光景はとても穏やかな気分になったのも明確に思い出します。

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今は日本では、障害者福祉の仕事で学ぶべき事がたくさんあるので、渡航プランを画策するにとどめざるを得ませんが、またこの街で自分を取り戻しに行きたいです。ここにはいつもキッチンが存在しているからです。

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